王冠王冠

「リク、なんだか、お前楽しそうだな?」
「あ、わかる?ほら、これ、いーでしょう。」
そう言って、リクは響に向かって一冊の本を見せびらかした。
「写真、、、じゃないか。画集か?」
響がそう聞いたのも無理はない。緑深い森の中を白い蝶が月に向かって舞う姿が描かれた表紙には、
他にその本を指し示す要素は全くない。受け取った響が表紙を一枚捲ると、そこに黒い中表紙が表れ、
銀色の文字で、『バタフライ・エフェクト』その下に『霧島レイラ』の文字がローマ字で刻印されていた。
「へぇ。出来たんだ。なに、これ、俺にくれるの?」
そう何気なく発した響の言葉にリクは慌てて彼の手から本を奪い取った。
「だぁめぇ。これは、俺の。ほらほら、見て、1番!」
リクが指さすところに視線を合わせると確かに0001のシリアル番号が同じく銀色で刻印されていた。
『リクは1ね。私の1番のファンだから。』
そう言って、リクにできたばかりの本を渡してくれた昨日のレイラを思い出し、リクは頬の筋肉を緩ませた。
その様子を見ていた響は興味を失ったのか、持っていた携帯に視線を戻すと
「ま、よかったじゃねぇか。心配ごともなくなったみたいだし。」と声をかけた。
「う、、、、うん。」
当然のように歯切れのいい返事が聞けるものとばかり思っていた響は驚き、リクに視線を移す。
「なに?問題解決してないのか?」
「解決してないってほどしてないし、全くしてないかって言ったらそうでもないし。」
「はぁ?なんだ、その意味不明な答えは?」
「うん、なんていうのかさ、俺の前では、普通に話してくれるし、普通に接してくれるんだけど、、、、
たぶん、また、書けなくて、悩んでるし不安そうなんだ。」
そう言いながら、昨日の彼女を思い出す。
リクが帰ってきた途端、慌てて机の上の原稿用紙を隠し、何事もなかったように笑顔を作る。
机の下に落ちて気が付かなかったのだろう、一枚だけ取り残されたその紙は途中まで書き記された文字を
塗りつぶしたため、真っ黒になって丸められていた。2階から戻ってきたレイラに見せると、
彼女は引きつった笑顔のまま、むしり取るようにリクの手からひったくると慌てて自分の身体の後ろに隠した。
「レイラ、それ。」
「なんでもないから。それより、鶴田さんから今朝、連絡あって、ほら、これ。」
そう言って丸めた原稿用紙の代わりに出来上がったばかりのバタフライ・エフェクトをリクに差し出した。
「できたんだ。よかったね。」
そう言う彼に今度は本当の笑顔で笑いかけるレイラを見て、リクは先程、言おうと思った言葉を飲み込んだ。

嬉しそうに本の事を話す彼女を見ながら、また、あの時のようにいつか書けるようになるだろうという
楽観視したリクの予想は、結局果たされないまま、季節は巡り、keinの恒例、結成記念ライブにリクが奔走し、
街にちらほら冬の気配が訪れ始めた頃、事件は起こった。

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