王冠王冠

「リク、四葉出版の人が会いたいって来てるんだけど。」
その話を彼が受けたのは、あの記事が掲載された雑誌が発売された三日後のことだった。
「取材ですか?」
そう尋ねるリクに対し事務所の人も首を傾げながら、「いや、人探しだってよ。」と答え、奥の打ち合わせ室を指差した。
訝しげにノックしドアを開け部屋に入ると、年の頃三十代半ばの背広姿の男がリクを待っていた。
「カ、カカカカインのリクさんですか!?」
「そ、そうだけど、、、、」リクが部屋に入るなり、吃りながら叫ぶ彼の勢いに若干引きつつも、リクは営業スマイルで返す。
「あーよかったですよぉ。これで違ってたら、また、亀岡さんに怒鳴り散らされるところでした。いやね、
怒鳴られるのはいいんですよ?私、慣れてますから。でもね、あの人、只でさえ血圧高いのに怒鳴るから
奥さんにね。ねちねち、言われるんですよ。あなたがしっかりしてないから、家の人の病気が悪化するって。いや、まぁ」
身振り手振りを交え怒涛の勢いで話続ける目の前の男はどうやら、一度話始めると止まらないらしい。
これでは、亀岡さんの血圧が高くなるのも納得だと思いつつ、リクは彼の話を遮った。
「あの、すみません。あなたのお名前は?」
「あ、申し遅れました。私。四葉出版の鶴田と申します。」
鶴と亀とは、何ともめでたい会社だ。
「で、どういった要件で?」
「あ、そうでした。あの、霧島先生、霧島レイラの居場所を教えてください。」
そう言って頭を下げる目の前の彼を眺めつつリクはどうしたものかと考え込んだ。
四葉出版。決して大手とは言えないが、新進気鋭の若手作家が中心の出版傾向で、
街の本屋に行けば必ず取り揃えられている。
リクも本を選ぶ際は、必ずチェックするようにしていた。
背がライトグリーンに彩られた単行本は、家の本棚にも並んでいる。
霧島レイラの名と共に。
「四葉出版って、レイラの作品をだしてるとこですよね?」
リクが確認の為にそう尋ねると、鶴田は我が意を得たと言わんばかりに満面の笑みで答えた。
「そう、そうなんですよ!いえ、実は次回作の元原も貰ってるんですがねぇ、それがちょっとすぐには
出せそうになくって。まぁ、ひとまず連絡を取ろうとしたら、いきなり、これでしょ?もう、参っちゃいましたよ。
書下ろしだから、他に出せるものもないし、けど情報は流れちゃってるから関係各所に平謝りして、
どうにか納まりましたけどね。もう、あの時は大変でしたよ。」
「あの、彼女に会ったらどうするつもりですか?」
愚痴を連ねていた彼にリクの警戒が伝わったのだろうか、鶴田は途端に笑顔になると大袈裟に
手を振りつつ訪問の意図を告げた。
「いいぇ、いいぇ、私はただ霧島先生の存在が確認できればいいんですよ、それで。」
満面の笑みで言われたところで何とも怪しいが、リクが無断で断っていい問題ではないだろう。
「あのー、ひとまず、レイラに聞いてからでもいいですか?」
「も、もちろんです。」
そう言うと、鶴田は挨拶もそこそこに名刺を置き足取り軽やかに部屋を後にした。

残されたライトグリーンの名刺をリクは、ため息と共に見つめた。正直な所、彼の知らないレイラを
知っているという鶴田のあの笑みを彼はどうしても好きになれそうになかった。
それは、自分だけの存在だったことが崩れてしまうからか、それとも他の理由からなのか、彼は
自分でもわからなかった。どちらにせよ、会うか会わないかを決めるのはレイラだ。
自分は彼女が決めたことに従うだけ。こんな子供じみた気持ちなど忘れてしまわなければ。
手の中で思わず握りつぶしてしまった名刺の(しわ)を伸ばすと、彼はそう決意した。

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