王冠王冠

「引っ越したお祝いに小さなパーティーをしよう。」
そう提案したリクにレイラは嬉しそうに頷いた。
家にあるありあわせの物を持ち寄った二人だけのパーティは決して豪華と言えるものではなかったが、
それでもレイラには十分だった。
「レイラ、書くのに必要なものあったら、なんでも言ってね。」
芳しいシャンパンが入ったグラスをあけながら、リクはレイラに話しかけた。
「ありがとう。大丈夫、花蓮が残してくれた原稿用紙があるから。」
「俺さ、レイラが書いた話をもう一度読み直してるんだ。ね、一個、質問があるんだけど、聞いていい?」
「うん、なに?」
開け放した窓から夜風が入りこみ、重たいカーテンを揺らした影が壁に大きく映し出される。
「あのさ、俺の質問がもしかしたら的外れなのかもしれないけど、レイラってその、ジャンルっていうか
書くものがばらばらだなって思ったんだ。ほら、普通の作家って、この分野が得意で、その他のジャンルも
挑戦してみましたって言うでしょ?でも、レイラの作品ってなんていうか統一感がないっていうか。別に、
批判しているわけじゃないんだ。ただ正直言って、うらやましいなって。俺らが別のジャンルをやったとしても、
完全にそれをやることは出来ない気がするのに、レイラはそういうの飛び越えていけるから。」
「忘れちゃった?」
その言葉にリクは火が灯されていない暖炉の前に立ち、自分を見下ろすレイラを見上げた。
彼女が手に持つワイングラスの中の真っ赤な液体が右に左に揺れるのを見つめながら問い返す。
「え?」
「レイラが作品を作っているんじゃないの。作品がレイラを選んだのよ。」
風が強まってきたのだろうか、がたがたと窓ガラスを揺らし始めた風が一瞬、舞い込み床に置かれた
蝋燭の火を吹き消した。
「でも、今度は、私の番。私がバタフライ・エフェクトを書く。」
真っ暗な部屋をレイラの声が支配した。

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