王冠王冠

夜空に浮かぶ満月がそこに集う人々を優しく照らしていた。ここが都会のど真ん中であることを
忘れさせてくれる鬱蒼(うっそう)とした森に囲まれた石造りの円形劇場。
その中で彼らの音は徐々にだが確実に人々に伝わっていく。音に乗せて動く体や手が段々と一体となり揺れ動く。
それは、まるで生き物のようだった。巨大な生き物。そこから生まれるエネルギーは何かを壊し、求め、またそこから
何かを生み出そうとしていた。レイラは、そんな熱狂の中、座りながら、その光景を目に焼き付けようとした。
今日という日が終わってしまう前に、大切な何かを見つけたい。そう願う彼女の頬をいつかのライブの時のように、
雫が一つこぼれ落ちていった。

リク達Keinのメンバーが会場から響くアンコールの声に押されステージに戻ると、
客席からは割れんばかりの拍手が沸き起こった。リクは、会場の端から端までぐるっと見渡すと一礼をしてから
マイクスタンドを握った。
「アンコール、ありがとう。すっごく、気持ちがいいね。皆、楽しんでる?
えぇと、少しだけ、聞いてください。今まで色々あったけど、今ここに立ててここで自分の歌が歌える、
そのことにすごく感謝しています。今日のこのステージは、今まで出逢った、たくさんの人の支えがあったから
実現できたことです。Keinはまだまだ夢を見続けます。皆も知っているとおりね、俺ら不器用なんで。
真っ直ぐというわけにはいかないかもしれない、時には道を間違えたように見えることもあるかもしれない。
けど、それでも前を見続ける。それを今ここに約束します。
今日、最後の曲。この曲はKeinのこのメンバーで初めて作った曲です。
俺らと共に成長していった曲だと俺は思っています。この曲を今日ここにいるすべての人に贈ります。」
暗闇の森を彩る星のように一つ一つの音がつながり、たくさんの人の元へ、そしてレイラの元へと届けられていく。
優しく包み込んでいく音の欠片にレイラはゆっくりと息を吸い込み、ステージを見つめた。

自分にとって大切なもの。彼にとって大切なもの。
熱狂と歓喜で(うごめ)く人の隙間から見えたステージのリクは、
本物の星にも負けないぐらい輝いて見えた。

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