王冠第四部王冠

第一章
王冠『それは形あるものが壊れた瞬間の悲しみによく似ていた』王冠


『レイラ、おはよう。今日のライブ、絶対見に来て。今までで、一番大きな会場なんだ。
ホールだから、そんなに疲れないと思うし。なにより、君に見てもらいたいんだ。午後六時、待ってるから。
、、、ツーツーツー午後3時27分 録音1件』
機械音が途切れ、それ以上鳴らなくなった電話機を前にレイラは、手に持ったチケットを見つめていた。
それは、一昨日、リクに手渡されたものだった。あの時の彼の真剣な様子、そして、今の電話。
行きたい。それなのに、どこかで躊躇する自分がいる。どうするのが正しいのだろう。

先程まで座っていたテーブルの上には、一面、原稿用紙が散乱していた。
書きかけのものもあれば、もはや文字と判別がつかないような書き殴られ破られたもの、白紙のままくしゃくしゃに丸められたものまで。
レイラは小さくため息をつくとテーブルの上の散乱した原稿用紙を一ヶ所にまとめていった。
書いては途中で止め、また書いては途中で止める。最近の自分はそれの繰り返しだ。
いつになったら、このループから抜け出せるのだろうか。永遠に繰り返すだけならば、いっそ、何もかも終わりにした方がいい。
そうできないのは、怖いからだ。失うことの怖さなんて、慣れていた筈なのに。今はこんなにも怖いなんて。
レイラは、床に投げ捨てられたままの革張りの日記帳に視線を落とした。
そこには届くかわからない花蓮に向けて書いた言葉が綴られていた。

゛Dear 花蓮
どうして、人は簡単に言葉を紡ぐのかな。
どうして、私は言葉を紡げないのかな。
花蓮は、知っているかわからないけれど、また書けない。
でも、この書けないは前の書けないとは違う。言葉が出ては私から零れ落ちて行って、
書きかけの言葉が私を制す。
どうしたらいいのか、もうわからないんだ。誰も私をわかってくれない。
From レイラ゛

前ページへ 次ページへ
Copyright(C)Kaoru Ichinose