王冠王冠

激しく降る雨の音にレイラは目を開けた。
まだ、午前中だというのに、天気が悪いせいだろうか、辺りは薄闇に支配されていた。
肌寒さのせいか、頭痛がひどい。こめかみを内側からじくじくと突き上げるような痛みに、レイラはソファに座り込むと
リクがかけたであろう毛布で自らの身体を抱え込んだ。滝のように激しく叩きつける雨を窓ガラス越しに眺めるともなく見つめ続ける。
「nとn+2にはなれない。」
レイラの口から言葉が零れる。気が付くと、そこは、幼い頃の自分の部屋だった。
停電でもしたのか、真っ暗な部屋の中、彼女はベッドに腰かけながら、窓の外を眺めた。
嵐の吹き荒ぶ音で窓ガラスが激しい音をたてていた。先程よりひどくなった雨足は、まるで彼女の心の中のようだった。
そんな光景を眺めながら、こんな天気で良かったと心底思った。隣から聞こえてくる雑音は、
激しく打ち付ける雨音にカムフラージュされているとはいえ、時々、生々しい単語が漏れ聞こえてくる。
きっと、雨音がなかったら、耐え切れなかったに違いない。人を罵倒するためだけの言葉。
憎しみをぶちまければ、幸せになれるのだろうか。答えはノーだ。
彼等だってわかっているはずだ。だけど、止められない。それが、彼らだ。醜くて愚か。
怒鳴っている父親も何も言い返さずただ下を向いたまま耐える母親も全ての元凶である自分も。
全て自分が奪った。尊敬していた父も優しかった母も。それに。
誰よりも大好きだった姉も。引き金を引いたのは自分だ。だから、終わらせるのも自分。
実行に移せないのは、結局のところ、怖いから。窓ガラスに映る自分はまるで泣いているようだった。
現実で泣けない彼女のかわりに。こんなことがいつまで続くのだろうか。
3,5,7,11,13,17,19,29,31,41,43,59,61,71,73,101........
答えが出せない代わりに頭の中で数字を並べていく。
無限に続く数字。無限に続く世界。無限に続くはずだった彼女の人生。
そう、だから、これは必然だったのだ。なぜなら、片方がなくなったら、成り立たないのだから。

外は相変わらず、雨が降り続いていた。先程より小康状態になったのか、静かに降り続ける
雨をよそにレイラは、先程の回想を思い出していた。あれは、確かに自分の記憶。そう、自分。
霧島花蓮ではなく霧島レイラの。 双子素数のように、永遠に二人でいようね。
そう言ったのは、どちらだったのだろう。
花蓮とレイラはよく似ているわね。ママも間違えるくらいだわ。
そうだね。ママ、だって、本当は私達、入れ替わっているのに、全然気が付かないんだもの。
二人だけの秘密。二人だけの約束。どうして今まで忘れていたのだろう。
永遠に二人でいようね。
レイラの片目から一滴の涙が零れ落ちた。

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